失礼します!
私は、礼儀正しさには定評があると思う。
誰に対しても挨拶は欠かさないし、中学の頃から、どの先生にも丁寧語を使っていた。
部屋に入る時は、必ずノックをし、「失礼します」と声をかける。
中学生の頃から、職員室に入る時は必ずそうするようにと教わってきた。
そんな私の習慣は、役に立つこと8割、そして例外が2割だ。
大抵は、丁寧な人だなと思われる。
しかし、それは時と場合によるものだ。
私は大学一年生の頃、アイスクリーム店で働いていた。
アイスが安くなるセールが毎月あり、その日は多忙で、みんな必死に働く。
私も仕事が遅いながら、皆に続いて、懸命にアイスを丸めた。
急ぐと、人間、つい素が出てしまうもの。
ある時、私はアイスクリームのケースのドアにノックし、「失礼します!」と声をかけ、アイスを丸め始めてしまった。
よく言えば、アイスにも敬意を払う、とても丁寧な店員だと思う。
忙しかったので、誰も見ていなかったことを願ったが、アイスクリーム店は女社会。
現実はそうも甘くない。
『アイスに敬意を払う女』という噂がすぐに知れ渡ったことは言うまでもない。
さて、次に私はコンビニで働き始めた。
基本的にコンビニはそうも忙しくない。
田舎のコンビニの忙しさなど知れている。
だから、コンビニでは、事務所に入る時以外は、「失礼します」を使わない。
しかし、先日のバイトはいつもと環境が違った。
ある事情により、統括店長と別の店舗の店長の監視下により働くこととなった。
いつもはゆるりと働いている私だが、ミスをすると彼女たちが事務所から出てきて注意を受けるため、すごく緊張して、いつもより何倍も丁寧に働いていた。
私は怒られるのがものすごく苦手なため、必死だった。
挨拶もいつもの何倍もの大きさで行なっていた。
相方の店員の子もまだ慣れていないため、出来るだけ私が近くで仕事をしていたいが、突然尿意をもよおした。
相方の子に声をかけて、ダッシュ。
急いで戻らねば!!
私は緊張やプレッシャーを感じているとき、素が出やすい。
「失礼します!!」
私の大きな声が店内に響き渡った。
かつて、このコンビニで、トイレに入る前にこれ程までに大きな声で礼儀正しく、挨拶をする人が居たであろうか。
ジュースを選んでいた女の子がキョトンとしてこっちを見ている…。
礼儀正しすぎるのも、玉に瑕。